2012年12月16日日曜日

心室内血栓 Left ventricular thrombus

これまで特に既往歴のない70歳男性。
早期胃癌のESDの術前検査の心エコーで、前壁〜心尖部の広範囲にわたる壁運動の低下と左心室内血栓を認めた。これまで胸痛の自覚はなし。

CAGでは#6 75%, #7 90%。
PCIはESD後に予定。

ヘパリゼーションとワーファリゼーション。

ESDのタイミングを検討。
ESD行ったからといって、血栓が飛ぶか否かは未知の判断。
ただ、MI発症の時期が不明なので、

ワルファリン+アスピリン投与行い、1ヶ月後に心エコーフォローにて左室内血栓の状態を確認し、縮小傾向ならもう1ヶ月、変わらないようならESDの予定とした。

UpToDateに参考になるreviewあり。
下記にまとめた。

UpToDate 「Left ventricular thrombus after AMI」

・LV血栓または高リスク群は、最低3ヶ月間は抗凝固療法を行うべきである。

・前壁-心尖部の心室留を形成する広範囲な前壁STEMIに多い。
・前壁のMIはLVEFの低下を起こしやすい。
・血栓のスクリーニングははTTEでよい。cardiovascular MRI(CMR)は感度・特異度に優れる(late gadolinium enhancement)。
・未治療のLV血栓は10-15%で塞栓のリスクあり。
・抗凝固療法での具体的なリスク減少率は記載なし。
・最初の3-4ヶ月のイベントが大半。
・可動性のある血栓(mobile thrombus)と突き出している血栓(protruding thrombus)が主な塞栓のリスク。
・新しい血栓は、心室腔の中央に向かって突き出している。可動性も高い。
・古い血栓は、平滑の表面で肝組織とエコー像が似ている。また変化や可動性もほとんどない。

UpToDateの治療に対する推奨アプローチ
・高リスクと診断した群へ抗凝固療法を数ヶ月続ける事は、血栓形成のリスクと全身塞栓(systemic embolization)のリスクを下げる。
・MI後(場所は問わず)にLV血栓を認めた患者、または前壁のMI、LVEFが30%以下の患者は、特に全身塞栓のリスクが高い。
・LVEF 30-40%の患者もリスクは高いが、それほどではない(not as great)。
・大抵のイベントは3ヶ月以内に起こるので、LV血栓と、そのリスクが高い患者では、AMI後3ヶ月に渡り抗凝固療法を行うべき。
・専門家の中には最低4ヶ月の抗凝固療法を勧めるものもいる。
・期間については出血のリスクで勘案すべき。
・抗凝固療法と塞栓予防についての、2012 American College of Chest Physicians(ACCP) guidelinesに準じた対策。
・AMI後でLV血栓がある患者、または高リスク群(LVEF<30% and 重度の前壁-心尖部の壁運動異常)に対して。
・経静脈抗凝固療法(未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリン)を、ワルファリンが治療域に達するまでの期間、aPTT2-3倍で開始。
・ワルファリンはPT-INR 2-3。
・抗凝固療法の期間は、PCIを行いステントを留置するのか否か、ステントの種類は何かに応じて。
・PCIを行わない群:ワルファリン+低用量アスピリン(75-100mg)を3ヶ月。抗血栓薬3剤併用の意見もあるが、出血と虚血再発・血栓塞栓のリスクを考えると、UpToDateは3剤は推奨しない。
・PCI施行し、BMS留置群:ワルファリン+低用量アスピリン+クロピドグレル75mgの3剤併用を1ヶ月間継続。2-3ヶ月続けるのなら、ワルファリン+1種類の抗血小板薬。3剤併用で3ヶ月継続は、出血のリスクとの勘案で推奨しない。
・PCI施行し、DES留置群:ワルファリン+低用量アスピリン+クロピドグレルの3剤併用を3ヶ月間継続。ACCPガイドラインでは、3-6ヶ月が推奨されている。
・ワルファリン終了後は、低用量アスピリン+クロピドグレルの2剤併用を1年間継続。
・ワルファリンの代わりにⅩa阻害薬使用については現在はまだ不明。
・ワルファリンは、塞栓のリスクを低下させるが、血栓消失の可能性を高めるかは不明(may not increase)。
・血栓のフォローはTTEにて行う。
・血栓消失について3つの報告あり。6ヶ月間で14/29(47%)が消失、1年間で24/51(47%)が消失、2年間で16/21(76%)が消失。
・TTEでフォローを行い、例えば、有茎性の血栓が続いているのであれば、抗凝固療法を推奨以上に延長したり、LVEFや心尖部壁運動の有意な改善を認めれば期間を短縮したりなど検討。

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